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 長年の片恋が実った浮かれ気分が、二年も経った今になって、ようやく落ち着いてきたとも言えよう。

 そんな具合に、すっかり商店街の常連さんとなった炭治郎だけれども、まだ知らない店もそれなりにある。
 八百屋や精肉店、鮮魚店などの食材関連の店は、買い物せずとも向こうから声をかけられるぐらいにはお馴染みさんだ。書店や薬屋なども、それなりの頻度で利用させてもらっている。
 まぁ、夜の営みに必要なアレコレについては、顔見知りの店で購入する勇気はさすがになく、ほぼ義勇任せだし、義勇も大概はネット購入のようではあるけれども。お陰で宅配便が届くとついそれらを連想して、ちょっぴり赤面してしまう変な癖もついたが、それはともかく。
 炭治郎も知らなかったその店に、義勇と共に赴いたのは、二月もなかばの深夜二時。そんな時間に開いている店がこの商店街にあるなんて、炭治郎は思ってもみなかった。
 すっかりシャッターの閉まった商店街はしんと静まり返っていて、見慣れた風景とはずいぶんと趣が異なる。いつもの賑やかさは鳴りを潜め、人通りの途絶えた商店街。少し物悲しくて、不思議と声を潜めてしまう。
 まるで世界に二人きりでいるような、ほんのわずかばかりの心細さと、義勇を完全に独り占めしているのだという甘い優越感や愛おしさに、叫びだしたいような気持を抑えて囁き声で会話しながら、深夜の商店街を行くこと暫し。
 細い路地に入って、少し進んだ先にその店はあった。

 大きめの紙袋を抱えた義勇と手を繋ぎ、真夜中の散歩よろしく赴いたそこは、こじんまりとしたコインランドリー。炭治郎がよく見かける小綺麗で大きめのチェーン店とはかなり違って、いかにも昔からここにありましたと言わんばかりの年季の入った狭い店舗には、業務用の洗濯機や乾燥機が三台ずつ。乾燥機の前には長テーブルとパイプ椅子が置かれていて、ここで乾いた洗濯物を畳むようになっているらしい。
 店の前には飲料メーカーの自販機が一台。店内でジーッとかすかな音を立てる蛍光灯より、よっぽど明るく光っていた。
 洗濯機はそれなりに新しいものを設置してあるようで、洗剤はわざわざ投入せずとも済むようだ。時間つぶしのためのテレビなどもなく、おそらくは商店街で買い物をする間にここを利用する人が多いのだろう。そのまま路地を抜ければ大きめの道路に出るようで、コインパーキングの看板が見える。なるほど、立地的には最適なのかもしれない。
 物珍しさに思わずきょろきょろと店内を見回した炭治郎は、小さく笑った義勇に促され、照れ笑いしつつ店内に足を踏み入れた。
 持ち込んだ洗濯物の乾燥まで終わるまでは、一風変わったデート気分を楽しむつもりでいるのだろうか。義勇は至極上機嫌なようだった。もちろん、炭治郎とて異論はない。

 こんな時間にコインランドリーを訪れなければならなくなった原因に、ちょっとばかり羞恥心を覚えたのは致し方ないとしても、だ。
 そしてまた、その原因こそが、義勇の上機嫌の理由の一つであることに間違いはないだろうなと、ちょっとだけ呆れもしたけれども。



 なにゆえこんな深夜に二人揃ってコインランドリーに赴く羽目になったのか。理由は至極簡単だ。ただ今の日付が二月十四日であることを顧みれば、答えは自ずと導き出せることだろう。
 付け加えてるならば、炭治郎と義勇はまだまだ新婚さん気分の抜けきらぬ同棲二年目を迎えようかというカップルであり、おまけに本日は日曜日で、日ごろは多忙な義勇も、今日の完全休養だけは死守した結果がこれである。
 ついでに言えば、ここ数日、天気があまり良くなかった。まだまだ寒い日が続く折、洗濯の優先順位が衣服になったのはしかたがない。シーツやらなんやらの大物は後回しになっていたため、汚れたところで替えがない。そんな諸々でお察しいただきたい。
 相変わらずこの時期の義勇の忙しさときたら、師も走る師走がこの時期までひたすら続いていたようなもので、今年めでたく三十路を迎えた義勇が息切れして体を壊すのではないかと、炭治郎としては少々不安を覚えたほどだ。

 いや、年寄り扱いなんてしちゃいないけど。してませんとも。まだまだ十二分に若いことを思い知らされたばかりだし。

 それはともかく、バレンタインに先だった義勇の誕生日には、それなりに甘い夜を過ごしはしたが、なにぶん平日ということもあり、二人揃って大満足というには正直物足りなかった感がある。おまけにそれ以前には、受験シーズンでもある今はどうしたってすれ違いが多く、セミダブルのベッドが『寝る』ために活用されることはあまりなかった。
 そうなれば、久し振りにスプリングをこれでもかと酷使されたベッドが、そのまま心地好く『眠る』には少々難ありの状態になるのも致し方ないことだろう。日付が変わってすぐの口移しのチョコレートが、それに拍車をかけたのは言うまでもない。
 問題は、先にも述べた通りここ数日天気が悪く、大物を洗濯することができなかったことと、寒がりな義勇が、今シーズンから使い始めた発熱効果のある敷きパッドにやたらと拘ったことだ。
 たしかに、ひやりとしたシーツは特に寒がりでもない炭治郎にしても、この時期ちょっとつらくはあるけれど、我慢できないわけじゃない。色々と汚れてしまった敷きパッドで眠るのはごめんこうむりたいというのに、同意するのはやぶさかでないけれども、使い物にならないのだからしかたないだろうと思うのだが、義勇の意見は異なっていた。

「……コインランドリー行くぞ」
「はい……」

 その時点で時刻は午前一時を過ぎたところ。正直言えば多少冷たい思いをしようと、炭治郎としては眠りたかった。日付が変わる前から始まって、つい先ほどお互い満足の吐息で終えた深夜の運動。心地好く疲れた体を義勇の腕に委ねて、チョコよりも甘い夢に浸りたいと思ったのは当然だろう。先ほどまでの運動での疲れ度合いからすれば、炭治郎の疲労は義勇の比ではないのだし。寒がりのくせにコインランドリーまで行くのはかまわないのかと、少々呆れもした。
 とはいえ、今日はバレンタインだ。甘い甘い恋の日だ。義勇の機嫌が良いのに越したことはない。
 ところどころついてしまったチョコの染みに、酵素系の漂白剤をちょっと垂らして下準備をした敷きパッドは紙袋に。寝具以上に色々と塗れた体は、深夜に申し訳ないと階下の住人に内心詫びつつ、じゃれ合いながらシャワーで軽く清めて。風邪を引かぬようきっちり着込んで玄関を出たときには、炭治郎も真夜中のデートを楽しむ気分になっていた。
 商店街の人や近所の人たちは、炭治郎と義勇を微笑ましく見守ってくれている風情ではあるけれども、やはり男同士であることに違いはなく、デート中に手を繋ぐことなどあまりできやしない。義勇はちっとも気にする様子はないのだが、炭治郎としては、義勇が周囲から奇異の目で見られることに、どうしても抵抗があった。